東電の広告

これね。昨日の日経に出ていた東電の広告。ALPS処理水の海洋放出についての理解を深めてもらうために、「科学的な根拠に基づく情報を国内外に分かりやすく発信していきます」っていうのが、これなんだろうか?

処理水の海洋放出について個人的意見はここでは置いといて、もし私がマーケティングの授業で「処理水を海に流しても大丈夫だということをわかりやすく発信する広告を作る」という練習課題をもらったら、どうするかなと考える。おそらく、トリッチ君みたいなゆるキャラをつくって、僕たちは自然界にもいっぱいいるよ、みたいなイラストを作るのかしら。でもそれこそ去年復興庁が作ろうとしたチラシと動画なんだよね。トリチウムを可愛らしく表現したイラストが使われ、「問題を矮小化している」などの批判を受けて削除した、っていう。

そっちの方向にいくとそうやって非難されるので、やっぱりこういう「科学的な説明」を文字で淡々と述べる「真面目な」スタイルにせざるを得ないのかなと思う。

メインコピーだって、単純に訴求力だけを考えたら、「心配無用。処理水を海に流したことが原因であなたが病気になることはありません」みたいなキャッチにすべきしゃないか。本当に達成したいのが、「科学的に安全だという理解」ではなくて「大丈夫なんだなという安心と納得」なのだとすればね。でないと「風評」はなくならない。

全町避難時代の浪江町役場で広報の手伝いをしていた頃からずっと感じていることだが、放射線や原発廃炉に関するリスクコミュニケーションは本当に難しいと思う。放射線のセミナーや研修も何回も受けたが、多くの人が親しみやすい方法で平易に伝えようとしたものに対しては、物事が単純化されすぎているのではないか、という疑念がわく。かといって詳細な情報を網羅したものに対しては、専門的なことを並べて素人を煙に巻こうとしているのではないか、という拒否感を持つ。人間、そういうものだ。

国も東電も専門家も、このくらいのトリチウム水なら海に流しても問題ない、大丈夫、とは書けない。環境中の放射線量は、このくらいなら問題ない、大丈夫、とは言えない。このくらいなら他所でも存在します、このくらいなら他所でも放出してます、(あとはあなたが判断してね)としか言えないのであれば、「安心したい、安心させてほしい」私たちと、「理解を深めてもらいたい」だけの国・東電との間のギャップは埋まらないだろう。

トリチウムは大丈夫でも体内で「有機結合型トリチウム」になったら内部被ばくが心配だ、とか。そもそもトリチウム以外の核種がちゃんと除去できていないんじゃないか、とか。モルタル固化とか他の案は真面目に検討されたのか、とか。そういう疑問に、QA形式で答えてる経産省のページなんかもあるようだが、推進側の言うことがハナから信用されてない場合、双方の主張は永遠に平行線である。

どだい、完全なる「安心と納得」を望むのは無理なのだ。あちら立てればこちらが立たずの中で、ぶっちゃけ、経済的にも環境的にも折り合える現実的な選択肢はこれしかないらしい、という「消極的理解」だけでもどうやって深めるか。そういうことなんだね、この広告で言ってるのは。

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